競売物件について
メリット(1) 「競売市場修正」によって評価額が減額されている
競売で不動産の所有権を手に入れる際、まず注意しなくてはいけないのは、物件の引き渡しを受ける権利や、隠れた不具合を保証してもらえる権利など、図で示したような通常の不動産売買で買主に認められている権利が成立しないという点だ。
つまり通常の不動産売買のように手厚く法律で守られていないのだ。これは以下で詳しく解説するように大きなデメリットだ。
だが、このデメリットがあるため競売物件は個別の条件によって物件価格を評価した後、「競売市場修正」として3割ほど減額している場合が多い。よく「競売物件は市場価格より3割ほど安い」と言われるのはこのためだ。
メリット(2) 特殊な物件をさがしやすい
例えば極端に狭い土地とか三角形などの変形地は需要が少ないため、そもそも売り出されることが希で、市場に出回る物件情報としてUPされることが少ない。
その点、裁判所の不動産競売では場所や価格、土地建物の大小に関係なく手続きが行われるので、極端に狭い土地でも変形地でも、一律に情報が提供される。
また公道に接面していない土地やその上に立つ建物、市街化調整区域内の建物、農地など、通常の不動産取引では流通していないような物件も、競売の対象となる。
だからこうした特殊な物件を手に入れたい人は競売物件をウオッチングするとよい。
離島や山間部など取引が極端に少ない地域の物件も同様だ。
デメリット(1) 引き渡し義務がない
競売で不動産を手に入れる際の最大のデメリットは、前回も触れたように売主がいないという点だ。
そのため通常の不動産売買では買主に認められている権利が成立しない。
例えば通常の不動産売買では、売主(あるいは仲介、代理を行う不動産会社)には所有権の移転だけでなく、その不動産を買主に引き渡す義務がある。
図で示したように、この引き渡し義務は多岐にわたる。居住用の物件なら賃借人などの居住者がいれば立ち退いてもらった上で引き渡すのが売主の義務だ。
さらに鍵の引き渡しやガスレンジや照明器具、エアコンなどの付帯設備の点検と使用説明もしなければならない。
また隣家の立ち会いの下で敷地の境界を確定し買主にきちんと説明する義務もある。
権利関係でいえば、それまで設定されていた抵当権や賃借権があれば引き渡しまでに抹消しておくことも売主の義務である。
こうした一般の不動産売買と違って不動産競売の手続きでは、裁判所が所有権の移転までは行うが、引き渡し義務までは負わない。
つまり裁判所の競売手続きで手に入れられるのは、その物件の所有権までなのだ。もしその物件に既に住んでいる人がいたような場合は、競売とは別の手続きによって明け渡しを求めなければならない場合がある。
最悪、その物件に住めないことも想定しておく必要があるのだ。
また空室の場合でも、通常の売買のように不動産会社が鍵を渡してくれることはないから、ほとんどの場合、あなたが自分で専門の開錠業者に頼んで鍵を開ける必要がある。
さらに鍵をあけた後も、前所有者や第三者が持ち物を残したまま(残置物)にしてある場合があるので注意が必要。残置物の所有権は移転しないので勝手に処分することはできない。
デメリット(2) 瑕疵担保責任がない
また通常の不動産売買では一定の条件の下で売主には瑕疵担保責任が義務付けられている。ところが不動産競売の手続きでは、そもそも売主にあたる人が存在しないので、だれも瑕疵担保責任を負わないのだ。
瑕疵担保責任とは不動産の売買契約をした時点では分からなかった隠れた不具合――例えば買ってから大雨が降って雨漏りすることが分かったなど――が判明したような場合、売主に損害賠償する責任があるというもの。
(中古か新築かで期間などに違いがあり、図の注でも触れたように、中古住宅の場合、売主が不動産会社でなければ「瑕疵担保責任を負わない」とする特約が有効)
したがって競売で所有権を手に入れた後で、建物に重大な欠陥があった場合はもちろん、水まわりや電気機器などに不具合があったとしても、すべて買った人が自己費用で修繕するしかない。
水まわりや電気機器などの付帯設備の点検は一般の不動産売買では先に説明したように引き渡し時の義務だ。
だが裁判所の競売物件は原則として入札前に立ち入ることができないから、建物や付属機器の状態は競売物件を評価する過程を記した評価書の記述から類推するしかない。
ただし評価書など競売物件について書かれた資料の内容と事実が大きく食い違うような場合は、売却許可決定の取り消しを求めることもできる。